題詠マラソン2004参加作品001:空 空のように翳る瞳だ、鳥なのか、さざめきたてるきみの抒情の 002:安心 花蔭に繭を煮るときいもうとに降りそそぐ致死量の安心 003:運 泣きながら水を運べば枕辺に春のひかりがあふれてやまぬ 004:ぬくもり 春の廊下を駆けてきたのに五線譜は風に捲れてぬくもりばかり 005:名前 煌めける川面に放つ笹舟にきみの名前をのせて卯月は 006:土 さっきまできみがすわっていた土に夏のひかりはのこされたまま 007:数学 「二次(試験)の数学」を「虹の数学」と聞き間違えてはつなつになる 008:姫 廃線の駅にも雨は降りそそぎ去年のように咲く姫女苑 009:圏外 ケチャップをかけすぎた朝きみの言う《雲雀圏外》に夏が来ている 010:チーズ 真夜中にチーズ嚼みつつ惑星の崩壊してゆくさまを見ている 011:犬 野あざみを蹴散らしてくる彗星を抱きとめれば犬のかたちだ 012:裸足 缶入りの紅茶甘くてさらさらと裸足になれば春の流木 013:彩 すこしずつ彩度落として踏切のむこうのきみがゆるく手を振る 014:オルゴール 振りおろされる木槌の下に砕けつつ幾度も抒情せよオルゴール 015:蜜柑 果てしなく蜜柑剥きつつ中東の砂のざらつくリビングに居る 016:乱 乱数のようなあなただ、真夜中にとどくメールにみどりが芽吹く 017:免許 運転免許試験場前バス停にバスを待ちつつさみどりの午後 018:ロビー なにを待つわけでもなくて百合の香に窒息しつつ午後のロビーに 019:沸 涛沸湖の鳥いっせいに飛びたって海の記憶は語られぬまま 020:遊 夏草が覆う遊具に手をかけてもういいのだとあなたは言うが 021:胃 「生来の胃弱ゆえ」また逃げられて彼岸先生の稿は届かず 022:上野 ゆうぐれの上野の森を運ばれる一枚の絵のむかしのひかり 023:望 月光にきみの指紋をひからせて望遠鏡は俯いたまま 024:ミニ ミニチュアの路面電車も暮れなずむ博物館に夕陽がとどく 025:怪談 花のようにほころびながら夏帯のあなたが語る四谷怪談 026:芝 かつて芝居小屋だった辻 褪せながらえのころぐさが揺れるばかりの 027:天国 天国の国境越えて戦いに赴く背にも羽根があるのだ 028:着 着ないまま夏を見送るTシャツに今年最後の風を孕ます 029:太鼓 炎天にうさぎの太鼓鳴りつづけ広告塔がぐらり傾く 030:捨て台詞 捨て台詞みたいに飛沫降りそそぐバタフライ(もうあんなに遠い) 031:肌 滅びゆく部族のように寄り添えばふたつの肌のふれあうところ 032:薬 一杯の水澄む夜の隅にいて薬包紙裂くゆびのつめたさ 033:半 あまやかな翻弄めいて、白昼の半音階ののぼりくだりは 034:ゴンドラ かつて血のひとすじとして流れたる河がゆるゆる運ぶゴンドラ 035:二重 二重奏不意に乱れてあおぞらの青の深まる 秋のはじまり 036:流 わたしたち何度死んでも生まれては流れるように出逢う 必ず 037:愛嬌 警告として一度だけ(見逃すな)愛嬌です螺旋足りませんけど 038:連 連ねれば潰える日々を青空に雲雀はのぼりつめたいばかり 039:モザイク この雨が聞こえませんかいくたびも描きなおした青いモザイク 040:ねずみ やるせなくぼくらはねずみ桃色の鼻寄せあって眠る夜更けの 041:血 満ちてゆくあなたの闇にひとすじの血を滴らせ椿がひらく 042:映画 帽子屋に黒い帽子を買うひとを無声映画の雨が濡らして 043:濃 さめぎわのみぎわやさしく打ち寄せて色鉛筆で描く濃淡 044:ダンス にわとこの蔭に隠れておりましたフォークダンスの輪を抜け出して 045:家元 鈍色のひかりを放ち家元の鋏しずかに椿をさらう 046:練 変わりゆくものを見ていた訓練所裏のフェンスに指をからめて 047:機械 青空の破れ目、ひかり、抜かれたり挿されたりするわたしは機械 048:熱 「もういい」とコップ渡せば雨音に朝の微熱がやさしく滲む 049:潮騒 潮騒に満ちるからだを抱き寄せてぼくの輪郭がこぼれはじめる 050:おんな 夏服に袖を通せばたちまちに鎖骨あたりでさざめくおんな 051:痛 かなしみの川に浸してひとすじの遠い痛みを知るゆびであれ 052:部屋 灯を消せばくらがり深く部屋はありウイルスメール降りつむ夜更け 053:墨 白墨で名前しるせば雲あわくあわく九月の胸に流れる 054:リスク アステリスクばかり増えゆくテーブルに企画会議の終わりが見えぬ 055:日記 ここから先は雪 で途切れるその先の来ない日記をいつまでも抱く 056:磨 歯磨き粉しぼりだしつつきらきらと朝の粒子にまみれる五月 057:表情 足を投げ出してあなたの表情があかるくなるのを見ていたまひる 058:八 色褪せた手紙の隅に春の日の八分音符が羽ばたいている 059:矛盾 いくばくかの矛盾ゆるして午後の陽を爪のあたりにあそばせておく 060:とかげ ひなぎくの花弁も、変わらぬ口癖も、とかげの喉の震えも、雨も 061:高台 高台に夏が届いてかがやける給水塔を目指す蜻蛉 062:胸元 胸元をすべる水滴 傲慢でいられるほどに愛されていた 063:雷 (遠雷なのか)夏の記憶を伝いくる響き(あるいはあなただったか) 064:イニシャル うつくしくひかりは途絶え人は立ち去ったイニシャルのみを残して 065:水色 やわらかいところがすべて水色になるまで耳を鎖しておいで 066:鋼 ぼくは大丈夫って言う旅立ちはさみしい鋼のようなあかるさ 067:ビデオ 愛されていたのだった 亡き人の視界とどめてビデオはまわる 068:傘 遠ざかる駅のホームで懸命に振られる傘の赤それだけを 069:奴隷 むしろ韻律の奴隷となればつややかにこの足首に飾る刺草 070:にせもの にせもののゆうやけにせものの窓にうつしてスクリーンはたそがれる 071:追 追伸はついに書かれず煙草屋の女主人が午後の欠伸を 072:海老 朝焼けの東名高速下り線海老名SAに冷えるCB 073:廊 古ぼけた画廊の隅に肺病みの画家を赦して冬の陽は射す 074:キリン 空色の回収車へと吸われつつキリンビールの麒麟は駆ける 075:あさがお 二度と泣かないわたしのために路地という路地にあまねくひらくあさがお 076:降 降りだせばたちまち雪になりそうな 歩けばがらんと音立てそうな 077:坩堝 十月を終わらせるため鳩尾に坩堝を抱いて歩きつづける 078:洋 きんいろに西洋菓子は焼きあがり老パティシエの美しい庭 079:整形 モディリアニたそがれながら部屋にあり整形外科医はやさしく睡る 080:縫い目 窓が雪に覆われるまできみが泣きやむまでほどきつづける縫い目 081:イラク ゆるせずに今日もイラクの風を聴く乾いた傷を持つ膝をして 082:軟 軟体動物声なき声に喚びかわし儀式はすでにはじまっている 083:皮 はじめての脱皮を終える梅雨晴れの声と声とで呼びあいながら 084:抱き枕 包帯を巻きなおすように抱き枕くるんで月の下ではひとり 085:再会 やわらかい裸足で果たすコルドバの白と青とのような再会 086:チョーク 黒板は春の薄暮へ 残像のようにチョークの跡を浮かせて 087:混沌 混沌を諾いながら空缶を握ればすこし凹む あかるい 088:句 夜の海のごとプリンタは紙を吐き世にあふれだす私家版句集 089:歩 三月の膝ひからせて駅前の横断歩道をわたりはじめる 090:木琴 なにかやにわにさみしさがきてめちゃくちゃに黒い木琴をたたいた日暮れ 091:埋 蝶を埋めてふたり小指をからめあうひかりのほかは降らない丘に 092:家族 ためらいのあとにはしずかな波が来てもう家族ではなくなることの 093:列 隊列をわずか乱して南下する雁の群れ もうやさしくなれぬ 094:遠 振り向けば遠いひかりに撓みつつバス停は立つ春のさなかに 095:油 きみが小脇に抱えてきたる油彩画に額を選べば四月が萌す 096:類 真夜中の魚類図鑑を抜け出してひれとひれかさねあえば月が 097:曖昧 濡れればきっと曖昧になる輪郭を、ふるえるように揺らぐ言葉を 098:溺 午後の陽はあふれつづけてうたかたのふたり鬱金香の耽溺 099:絶唱 凪ぐ胸に月の航路を守りつつ(もう失わぬ)海の絶唱 100:ネット ネット歌人さざめきたてば短歌とは絡まりながら連なる螺旋 |
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