題詠マラソン2005参加作品001:声 さめぎわにひろがる朝の声色がみどりとなって滴るまでを 002:色 冬の陽に色をほどこすさみしさで階段に置くきみのevian 003:つぼみ 触れればつぼみのかたさで拒む三月のハーブチキンを胡椒まみれに 004:淡 淡水魚逃げる迅さを話しつつ溺れる、春の、水のひかりに 005:サラダ あたらしい皿にあなたがとりわけるサラダ 砲架は遠く組まれて 006:時 潮時を告げる仕草で立ちあがるきみに遅れて応接ソファが 007:発見 はつなつの野に立ちつくす ささやかな発見がもたらした翳りに 008:鞄 こわれますかね。こわれるだろう。バスは道を、春には春の鞄をのせて 009:眠 さくらさくら散りやまぬ夜は触れえない人の眠りに遠く吹く風 010:線路 うらうらと春の線路は陽をあびて蜜蜂の死とあなたを運ぶ 011:都 眠れずに水を購う 都市に棲む翼竜のことなど思いつつ 012:メガホン 両の手をメガホンにして呼べばもう矢車菊のかなたを走る 013:焦 裁縫箱ぶちまけたままきらきらと焦げついていた夏の俯瞰を 014:主義 感傷主義に流れる雲を殺めつつ食卓を拭く春のまなかに 015:友 行くのならひとひらの火を 友禅の枝垂れ桜の終わらぬ春に 016:たそがれ 連翹の散り敷く庭にすれちがう、振り向けばたそがれに目覚める 017:陸 大陸的な朝につらなる一日が合歓の木蔭に過ぎた日のこと 018:教室 余熱もつ指で閉ざせば教室は春のしじまに沈みはじめる 019:アラビア アラビアと口にするたび白い花こぼれますます遠いアラビア 020:楽 あなたへと綴る手紙をあたらしい楽章として秋を奏でる 021:うたた寝 六月の樹下のうたた寝 触れてくるものをやさしく握りかえして 022:弓 弓形に眉をひくとき心持ちあかるく逸れて跳ぶ草雲雀 023:うさぎ 仔うさぎのシチューを舌にのせるとき緑は芽吹く遠き眼窩に 024:チョコレート チョコレートの銀紙裂けば冬空のあかるい場所に届くぶらんこ 025:泳 宛先のない葉書のようにはつなつの朝のはじめのひかりを泳ぐ 026:蜘蛛 ゆびとゆび絡ませあえば陽にあそぶ二匹の蜘蛛となって ひかりに 027:液体 泣きやんでやがて朝には透明な液体となり春にまぎれた 028:母 ひざうらに草匂い立つ母国語にない発音で朝を呼ぶとき 029:ならずもの ならずものと名前をつけたのらねこをボンネットにはべらせて五月は 030:橋 きみへ行く橋がかがやくゆうぐれはあやうい 髪が風にさやいで 031:盗 盗まれた欠片を追った切なさを封じてひとり 夏のクロール 032:乾電池 乾電池売場に迷う六月の蝶、やわらかな訃音の果てを 033:魚 読み倦んだ安吾そののちたそがれの魚になって書斎を泳ぐ 034:背中 背中からほどかれそうなひだまりに朽ちる楽器を見守っていた 035:禁 バイオリンケースに禁書を匿って花散りやまぬ駅舎をくぐる 036:探偵 海からの手紙をさがす色褪せて探偵小説ならぶ書棚に 037:汗 ひざうらに汗きらめかせ駆け出せばあなたの胸にひらくひるがお 038:横浜 冬の陽を撥ねてカーブにぎんいろの車体が軋む 横浜行きの 039:紫 姫紫苑手折る指先あたりから飛びたつ夏の翅を仰げば 040:おとうと 鱗粉にゆびを汚しておとうとがまひるま遠く奪うしずけさ 041:迷 風の野に迷う あかるく暮れる日のあなたの声が波立つあたり 042:官僚 嘘は海へと抛られたまま傾いて官僚的に過ぎる休日 043:馬 バス停は雨につつまれ佇んだ馬のかたちにかすむやさしさ 044:香 ゆっくりと忘れ去られる咎として鶏胸肉に詰める香草 045:パズル いつか消えた雪の匂いか 組みかけのパズルちらばる冬のフロアに 046:泥 やがて泥のように眠れば鴇色の花をたたえて舟が流れる 047:大和 野の花の蕊の白さに大和路のひかりは射して死者の声顕つ 048:袖 片袖を通したままで壁越しに聴く三月の朝の水音 049:ワイン ワイングラスに満たした海をそのままにあなたの船がわたしへと来る 050:変 変声期迎えるように恋が来て雨が来て、そののちのさやけさ 051:泣きぼくろ それさえもかき消える残像として横顔の泣きぼくろ思えば 052:螺旋 巻貝の螺旋さみしく閉じてもう届かなくなる夏をこぼした 053:髪 髪を編む姉の指先あたりから春へとゆるむ徴(しるし)が萌す 054:靴下 色褪せた写真の母に捧ぐべく三つ折りにする春の靴下 055:ラーメン 斜向いでラーメンすするこの夜の闇の向こうになにも見えない 056:松 満ち足りて窓に凭れた海に沿う松の林が途切れるまでは 057:制服 制服を脱ぎ捨てたままくちびるにあてがう筆先の迷わなさ 058:剣 少年剣士の物語から逸れながら父が聞かせる色彩理論 059:十字 告げられるのが怖かった十字路という十字路に冬陽が射して 060:影 解き放つ鳥たちまちに影となり夢みるように錆びつく門扉 061:じゃがいも こわれない背に負けている夕暮れにじゃがいもの芽を刳り貫く母の 062:風邪 黄水仙庭に咲く日はこじらせた風邪の名残の咳をこらえる 063:鬼 楡の木に額をつけて鬼のままいつも終わった 失えもせず 064:科学 科学的根拠のなさを責められて青空ふかく傾ぐつばさは 065:城 城だったちいさな部屋にいくつかの花を咲かせた遠い五月を 066:消 消え残る記憶、書棚の片隅の蝿の死、真夜にひらく花の名 067:スーツ 運ばれるスーツケースを待つあいだ死者の名前を思い出せずに 068:四 木曜の朝のジャニスがコーヒーと四つ辻に降る雨にまぎれて 069:花束 かなしいことはかなしいと言え きみはまた花束のまま枯らしてしまう 070:曲 アシカもアシカ飼育係も曲芸を忘れて空の翳りを仰ぐ 071:次元 次元から次元へ渡りゆくような足取りでバス停を離れる 072:インク 掠れつつ伝わる言葉、便箋の青いインクのその筆跡の 073:額 両の手を額にかざす七月はくるしいほどのまぶしさにいる 074:麻酔 冬の陽が転がっている麻酔から覚めないままのきみの窓辺に 075:続 なにをやっても続かないねと両足を投げだす 外はひたひたと雪 076:リズム そのリズムその距離感で繰り返すことばが波のようにたゆたう 077:櫛 いもうとの春匂いたつ結い髪にひかりのように櫛を飾れば 078:携帯 薄闇の携帯電話の液晶の青が無数に集う会場 079:ぬいぐるみ 毛羽立ったぬいぐるみです洋服のボタンの瞳にうつる空です 080:書 書きかけの手紙を裂いたあけがたは胸に古びた雨を聴きつつ 081:洗濯 かきわけて泳ぐ雲雀が遠くなる洗濯日和と空を仰げば 082:罠 昨日きみの影を落とした道端に露草ひとつ罠めいて咲く 083:キャベツ 春キャベツきざむそばから空色にこぼれてしまう八分音符を 084:林 体内の白き錠剤思いつつ夕暮れ栗の林を歩む 085:胸騒ぎ 胸騒ぎのように立つ雲 この夏のからだを満たす水を求める 086:占 あふれだすボーヴォワールに文机も書斎も占拠されつつ眠る 087:計画 愛されるための計画憎みつつひかる川面に照らされていた 088:食 食卓のあかるさよりもアトリエの薄暮を好むひとを愛した 089:巻 巻き戻し忘れたビデオテープから終わった夜があふれはじめる 090:薔薇 薔薇ですか蝙蝠ですかあなたから突き立てられた剣が見えません 091:暖 たっぷりと暖色を待つカンヴァスのためあたらしいチューブを絞る 092:届 届きたくてのばした指をそのままに進む少女の夏の自転車 093:ナイフ ペインティングナイフ滑らせ消えそうな鳥の記憶を青くとどめる 094:進 頬杖のまま聞いていた進化論あなたの耳のかたちを好きで 095:翼 そこにひかりはさしているのか、こなごなの翼散らばる夏の記憶の 096:留守 深くなる冬の陽射しが留守がちな隣家の鉢の影をのばして 097:静 つめくさに火照るからだを投げ出して静かな夏の空に溺れる 098:未来 未来みらい そこにわたしが行くころに滅んでしまう国があること 099:動 動けばきっとこわれるでしょう夏の庭暮れゆくまでを膝ひからせて 100:マラソン 海沿いの国道ゆるくカーブしてマラソン走者が冬陽を運ぶ |
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