題詠100首blog参加作品001:風 病む人の杳い眠りを吹く風が果てなき国へ呼ぶ夜の飛花 002:指 罪人の額に飾る刺草を編む指 なべて人は俯く 003:手紙 預かった手紙を失くす癖のあるわたしの白い花弁を毟る 004:キッチン 黄昏の来ないキッチン 声変わりせぬ声でいつまで母を呼ぶ 005:並 見知らぬ顔を窓に並べて青白き最終電車は春の闇へと 006:自転車 きらきらと互いを絡めあいながら放置自転車朽ちる三月 007:揺 オルゴール仕掛けのテディベア壊れ揺すればひとつ、ふたつ、こぼれる 008:親 親しめば水はかなしく晴れの日のふたりの影をうつして揺れる 009:椅子 まぼろしの椅子いつからか胸にあり深く射し込むその黒き影 010:桜 老いてなお桜わたしをゆるさぬと降るこの肺を埋め尽くすまで 011:からっぽ だからもうからっぽだって夏空に力の限り打てばかがやく 012:噛 噛み痕をあかく残した手の甲でつめたい頬を拭ってくれた 013:クリーム 計画は未遂に終わりはみだしたクリーム避けて雑踏が過ぐ 014:刻 なお深き刻印 雨が瀟々と廃城の野薊を濡らせば 015:秘密 意味もなく秘密めかせば白蓮の咎めるような薄暮に二人 016:せせらぎ せせらぎの模様にひかりさざめいたあなたの頬が歪まぬように 017:医 深海の魚は動かず 真夜中の医局の澱に浮くあばら骨 018:スカート いま風が吹いたねきみのスカートが孕んだ青空をぼくにくれ 019:雨 アーモンドグリコ、adidas、雨粒に五月を宿し舗道をはしる 020:信号 信号が滲んで見える雨の日の草をふるわすようなくちづけ 021:美 人でいることに疲れる 夜半あかく虞美人草を膝に咲かせて 022:レントゲン 雨ばかり聞き分けたがる耳を閉ざしてレントゲン技師の休息 023:結 片方がゆくえを消したゆびきりをおもう二月の髪を結うとき 024:牛乳 牛乳の瓶を鳴らして敷石を跳べば水原紫苑の花野 025:とんぼ つぎに逢うときにはとんぼ さざなみの影立つ夕暮れの水に沿う 026:垂 垂直に落ちるかなしみ キッチンの床に卵を拭う夜更けは 027:嘘 縁先に仕込む蚊遣りの渦巻に火ともす指を嘘が揺らめく 028:おたく おたくどうしてる?とやおら隣人に触れられ 骨の軋む音する 029:草 今生の最後の月を見るように煙草屋までを並んで歩く 030:政治 政治家の訃報を告げる号外が肉屋で肉を包み、はつなつ 031:寂 寂しさを言いつのられて真夜中の受話器に蔦が絡みはじめる 032:上海 延長戦の後に破れて裏町の上海飯店が黄昏れる 033:鍵 真鍮の鍵を回せば野の果てに鳴る廃校のグランドピアノ 034:シャンプー 五月。ともに暮らしはじめてシャンプーを選ぶあなたに雲雀が宿る 035:株 伐株のまだあたらしい切口に降る霧雨をみどりと呼ぼう 036:組 指を組む仕草を真似て亡き人の机に届くひかりを見てる 037:花びら 花びらを脱ぎ捨てて屹つ一輪として痩せこけた胸を晒せば 038:灯 すべてもう海へと還る。灯台に身を打ちつけた鳥の骸も 039:乙女 厳かに粉砂糖降る乙女的こだわりとして飾る苺に 040:道 向日葵の声なき叫び、道という道を遮り続く骸の 041:こだま 返らないこだまを待てば爪の先からゆうぐれの水にのまれる 042:豆 そら豆を剥くたびおもう裏切りという名のひかり知った日のこと 043:曲線 そらすときその背が描く曲線が燕を呼んでいると思った 044:飛 飛ぶものの影に視線をさらわれたあなたを滑り落ちるストール 045:コピー 幾重にも許せぬ記憶吐き出して止まることなき夜のコピー機 046:凍 凍てついた花を散らせば美しい舟となる雨の朝の棺 047:辞書 仏和辞書の薄い頁をめくるとき。あなたの指が風を生むとき 048:アイドル 自殺したアイドル歌手のポスターが色褪せて古書店店主も不在 049:戦争 紫陽花を見ぬままふたつ戦争を過ごし畸形のトマトをきざむ 050:萌 花ひらく萌しを摘んで雨を待つ(死ねない高さのベランダにいる) 051:しずく ひざうらをしずくのつたう心地してあのひとも、あのひとも、あのひとも 052:舞 戦車数台列なす後に立ちのぼるあの夏の日の蝶の乱舞を 053:ブログ ブログ炎上おさまりてのち忘却のしるしとしての静けさが来る 054:虫 磔刑の翅乾きゆく虫たちの部屋を包んで欅が繁る 055:頬 頬杖の視線の先が見えなくて、ドーナツ屋の満席の止まり木 056:とおせんぼ 泣きながらするとおせんぼ守りたいたったひとつが燃え尽きるまで 057:鏡 髪結えば鏡の底に沈められ滅びきれない夜のいくつか 058:抵抗 人らみな踏みしだかれて色あたらし。抵抗の余地なき国にいて 059:くちびる 夏の花朽ちる廃墟にくちびるの乾いたひとを恋う夕まぐれ 060:韓 かなしみを放ちやるとき民族というもの美しく韓国(からくに)を織る 061:注射 注射針腕に沈めて紫陽花を打つ雨音に包まれている 062:竹 滅びゆく集落を背に鳴り止まぬ竹の葉擦れをただ聴くばかり 063:オペラ 石段を黒く濡らして歌い手のいないオペラ座に雨が降る 064:百合 ただひとつを失うことを恐れては百合の花弁にしるす爪痕 065:鳴 自らは鳴けぬ鳩笛両の手でつつましやかな丸みを包む 066:ふたり 向きを変える船を見送るふたりしてかじかんだ手をつなぎもせずに 067:事務 存在の軽さを思う事務室のストーブ青く燃える朝には 068:報 人の死を報せに赤い自転車が真冬ひだまりの路地を曲がって 069:カフェ カフェマルゲリータの西の壁際の席があなたの不在を告げる 070:章 楽章が遷ろうときの静寂に似てその先の言葉のかたち 071:老人 海の見える老人ホームに俯いてしずかに咀嚼する春の暮れ 072:箱 美しい箱を欲しがる少女らといて十月の窓を見ていた 073:トランプ トランプに飽きて投げ出す指先が床に転がる陽射しに触れる 074:水晶 蒼ざめた水晶体を春の陽に浸す(あいたい)寄生木の下 075:打 弧を描き打球は空へ もう誰もがその名を鳥の囀りとして 076:あくび 祖父のおおあくびは宵の庭先をたゆたい 何度目の桜桃忌 077:針 針箱に針の輝き 夏草の匂いも色も置き去りにして 078:予想 当たらない予想屋の背を掠めつつ活字夥しく風に舞う 079:芽 芽吹く音たててゆっくり麓から(あらあらかしこ)春が蝕む 080:響 置き去りにされて仰げばあおぞらの雲雀交響楽のただなか 081:硝子 またひとつ蝉を殺して硝子片ちらばる部屋に西陽を招く 082:整 隊列はことごとくかき乱されてまた整って蟻として行く 083:拝 廃村の礼拝堂を抱いたまま冬 深緑に満ちるみずうみ 084:世紀 帰り来よ。世紀の終わりはじまりを越えて、あなたのかたちのままで。 085:富 暗い川を歩いてきたね《富国強兵》《富国強兵》つぶやきながら 086:メイド メイドからメイドにわたすスプーンがあつめる春の祝祭のうた 087:朗読 朗読は闇を流れる仄白く泰山木の花を浮かべて 088:銀 あしたには湖底に沈む集落に大銀杏の黄そそいで止まぬ 089:無理 「無理だから」ひどくあかるい照明の下で残滓のようにあなたは 090:匂 匂わせるような言いかた 引出しに鳥のかたちの消しゴムがある 091:砂糖 厳かに午後の宴をめぐるときややも重みを増す砂糖壷 092:滑 曲面を衣はやさしく滑り落ち冬陽に透けるピエタ ふたりは ※衣=きぬ 093:落 影となり影のまま抱く落花生剥きつつ聴いたコルトレーンを 094:流行 流行歌大音量で流れつつ啜らされてる屋台ラーメン 095:誤 テオよ、いま晴れ晴れとした一発の誤射としてぼくは飛びたつ雲雀 096:器 この家の器がすべて白いのでぼくはあかるい麦になります 097:告白 告白を待てばすずしく天窓にひかりの気配して鳥が来る 098:テレビ テレビ塔の下で待ってる、そう言って二度と会えずにそれきりでした 099:刺 刺草で編む王冠のそんなにも笑ってきみは春の陽のなか 100:題 歪なる箱いっぱいの馬鈴薯がくつがえされぬ命題として |
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